これからの言語聴覚士①

言語障害を持つ子供を支える

人間は0歳から10代初期までの間に言語を習得しますが、そのうちでも三歳から四歳までの時期は、語彙を増やし、文法を理解するうえで大変重要な時期。言葉の遅れは早期に発見し、それが確認されたら直ちに必要な処置を講じなくてはなりません。

そしてそのためには、言語聴覚士の力が不可欠です。

では、彼らは実際どのようにして子供の言葉の遅れに対処するのでしょうか。

リハビリテーションセンターの療養課で働く言語聴覚士Sさんの活動を見ながら、それについて考えてみましょう。

とある横浜市内にあるリハビリテーションセンターの療養課

横浜市内にあるリハビリテーションセンターの療養課には、子供の元気な姿が絶えない。ここにやってくる子どもたちは医師の診察を受けた後必要に応じて言語指導を受けるのだが、障害の程度や機能回復の目標は千差万別だ。

たとえば、Sさんが担当する子供の一人K君は難聴や知的障害などいくつかの障害を抱えており、機能向上を目指して訓練を受けている。

ある日のプログラムは、次の通りだ。

まずは音声面での理解を見る訓練から。

絵を見せて「これは何」と聞くと、K君は言葉と身振りを交えて答える。ジェスチャーが入るのは、一部の音は発音できないためだ。

同時に、聞き取りの理解も見る。Sさんがラーメン博物館のラインナップからいくつか選び、その名前を発音する。

たとえば、「R本店の味噌ラーメン」というと、K君は、味噌がてんこ盛りで太めの縮れ面が食欲をそそる、濃厚なスープのラーメンの写真を選んだ。正解である。

「そう、大正解。R本店の、み、そ、ラー、メンだよね」と一語一語区切って発音し、自分でも発音してみるよう促す。

K君がうまく発音できると、

「よく言えました。この前よりだいぶすらすら言えるようになったね」と、褒めることを忘れない。

次いで、記憶力の訓練に移る。家族や友達など身近な人の写真を見せ、その人の名前を答えてもらうのだ。

「この人はだれだったかな。ほら、右から二番目の、ひげを生やした人」

「……」

「ほら、この前一緒に遊んだよね。ベイスタジアムに行った帰りに新横浜駅でK軒のシウマイを買ってくれた……」

とヒントを出しつつ祖父の名前を思い出させる。無事思いだしたら

「よくできました。以前は思い出せなかったけれど、今日はおじいちゃんの名前が言えましたね。きっと喜んでいますよ」と、できるようになったことを見つけ、しっかり評価する。

さて、訓練が終わると、次は保護者の方との面談に移る。

その日の訓練の内容やご子息の様子について報告するのは当然だが、家庭での様子など、日常生活について話を伺うことも怠ってはならない。

日々の生活の中で生じる悩みや問題を保護者が打ち明け、それについての対策を考えアドヴァイスするまたとない機会だからだ。

待つ親の中には、子供を心配するあまり様々な情報を求め、あちこちに教えを請うばかりに雑多な情報に振り回され、逆に混乱してしまう方が少なくない。

そうした親を精神面で支え、適切な養育環境を作る手助けをすることも、子供と関わる言語聴覚士の重要な仕事の一つだ。

以上Sさんのお仕事の一端を見て参りましたが、子供のケアを行う言語聴覚士には、専門知識や訓練に関する経験や技能、患者とのコミュニケーション能力など、通常の言語聴覚士に求められる能力以外にも次の二つが必要とされます。

まず色々な障害の症状を理解し、それに対して適切な処置をとる対応力です。

K君の事例にもあるように、言語障害を抱える子供の障害は、言葉だけでなく知能や知覚、身体等色々な部分に障害を持っていることが往々にしてあります。

それに柔軟に対応する能力や姿勢が無くては、子供の問題を解決することは困難です。

もちろん、中には自分の専門領域とは関連が浅く、言語聴覚士だけでは対応しきれない問題も出てくることでしょう。

そうしたときは、医師や看護師、場合によっては保育士など医療・教育の専門家と連携し、情報交換しながら対策を考える必要があります。

次に、保護者の方とやりとりし、彼らの不安や悩みを払しょくするとともに必要な情報を引き出す力です。

既に述べたように、特に障害を抱える子供を持つ親の不安は並大抵ではなく、情報収集に奔走するあまりかえって混乱してしまう方が多くいます。

そのとき、専門家としての責任を持ち、適切なアドヴァイスをすることが言語聴覚士、そして他の専門家には求められます。

とはいえ、保護者はただ周囲の情報に流され、翻弄されるだけの存在ではありません。

子供のことを誰よりも真剣に考え、その日々の暮らしを身近なところから一番よくみているのはほかならぬ保護者の皆さんです。

当然子供の友達関係や普段の様子、関心などについても詳しく知っているはずです。

彼らから有効な情報を聞きとり、場合によっては表情や体調から相手の心中を察して声を引き出す(たとえば、顔色が優れなかったり体調不良が続いているときは、本人が何も言わずとも「何か困ったことがありましたか」と聞いてみるなど)といった心配りも求められます。

発育・発達する中で何らかの障害を抱える子供はこれからも生まれてくることでしょう。彼らを支え、日常生活を送れるようにすることも、これからの言語聴覚士にとっての大切な使命の一つです。

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